内容説明
手塚治虫が中学校(現在の高校)に入った後、日米は開戦しました。戦時下の日本で、手塚は軍需工場での勤労奉仕や大阪大空襲を経験します。そして、自らが体験した「戦争」の悲惨さを後世に伝えるべく、彼は戦争をテーマにした作品を数多く描いてきました。本書では、自伝的漫画「どついたれ」をはじめ、現在の日本を彷彿とさせる「悪魔の開幕」、原爆問題を扱った作品など、選りすぐりの九編を収録しています。現在、日本では戦争の記憶が風化し、平和の尊さについても鈍感になっています。戦争の足音が聞こえてきそうな今だからこそ、読んでほしい珠玉の短編集です。
目次
悪魔の開幕
ゴッドファーザーの息子
空気の底 猫の血
ブラック・ジャック アナフィラキシー
どついたれ 抜粋
やまなし
ブラック・ジャック やり残しの家
最後はきみだ!
ザ・クレーター 墜落機
著者等紹介
手塚治虫[テズカオサム]
1928年、大阪生まれ。大阪大学医学専門部卒。47年に『新宝島』を発表。映画の手法で雄弁に語られたドラマとして注目される。医専時代、すでに学業の傍ら流行作家となり、やがて児童雑誌に進出してストーリー漫画の世界を開拓した。61年、手塚治虫プロダクションの動画部(のち虫プロ)を設立してアニメーションの分野でも活躍。質、量ともに戦後漫画界を牽引してきた第一人者である。89年に60歳で亡くなる(本データはこの書籍が刊行された当時に掲載されていたものです)
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感想・レビュー
※以下の感想・レビューは、株式会社ブックウォーカーの提供する「読書メーター」によるものです。
zero1
43
私自身戦争を知らない世代だが、特に平成生まれの人に読んでもらいたい。戦争に関連した手塚作品を新書で紹介。「ザ・クレーター 墜落機」は戦死した兵士を軍神として扱う様が表現されている。泣く母親が哀れ。結末は「バトルランナー」(R・バックマンだが実はS・キング)を思い出した。「悪魔の黒幕」は首相暗殺を狙う男の話。戦争に関係なさそうで深く関連している。原爆や空襲も描かれており、戦争の不条理を学ぶのに役立つ。何冊かシリーズになっている。地味な新書とはいえ、レビュー16件とはもったいない!2019/05/28
jima
27
手塚治虫の戦争をテーマにした9作品。白井聡氏の巻末解説より「・・・我々は今、『戦後の終わり』に立ち会っている。それをもたらしたのは3・11福島第一原発の事故であった。我々が畏怖してきたはずの大地を、自然を、我々は自らの手で台無しにした。・・憲法への非常事態条項の書き込みへの策動や・・一連の政策は、政権によるクーデターに等しい。戦後の自由民主主義の基盤は、日々掘り崩されている。」その行き着く先を本書は示している、と。確かに、なるほど。2017/08/19
江口 浩平@教育委員会
25
【漫画】逆のものさし講の選定本。手塚治虫の漫画はブラックジャックくらいしか読んだことがなかったが、もっと読んでみたいと思える1冊だった。宮沢賢治の「やまなし」を、戦争による民衆の理不尽な死と読み替えて描き直していたのが印象に残った。小学校6年生とやまなしを読むにあたり、紹介してみてもいいかもしれない。2019/03/21
roatsu
21
既読短編ほかの集成。純粋な反戦思想、同時代人として少年期に経験した戦災の惨さと、米ソ冷戦下の核戦争の恐怖など執筆された戦後日本の世相も映した佳作が揃う。表現の巧みさにはいつもながら驚く。ゴッドファーザーの息子は時代を超えて胸を打つ優しくも悲しい物語。ただ、帯の煽りに悪意を感じる。何かにつけあの時代とあげつらうが真に実態を知らず、敗戦のどさくさに占領国以下が植え付け卑屈な負け犬根性で従った暗黒国家のレッテルにいつまで無責任に胡坐をかき続けるのかと。思考停止の自己卑下は日本の将来のためにも打破せねばならない。2017/07/12
華形 満
9
この収録9作の中で私的には「やまなし」と「最後はきみだ!」の2作が良かった。宮沢賢治の原作を読んだかどうか曖昧なのだが手塚流のアプローチは流石!「最後は・・」は今ブーム再燃している「君たちはどう生きるか?」と通じるものがあると思える。手塚作品なくして今の日本は語れないのではないか?時代変われど戦争に対する憎悪は永久に変わらず。こうした作品が後世に伝えられて行って欲しい。2018/07/07